事実は小説よりも樹なり・ハワイ編36
フラ・ダンス発表会 幸せと、祭りのあと (2003'07'02)




同じクラスの友達と。
頭にかぶっている花のレイは、学内から摘んだ花で手作りしたもの。

 授業終了も程近い、4月30日の夜。授業で取っていたフラ・ダンスの発表会があった。
 以前も書いたが、ハワイ大学の科目で、フラ・ダンスを受講していたのである。 そのクラスでは、発表会が期末試験の代わりとなっており、他のフラのクラスやハワイアン・チャント(歌)のクラスの交えて、学生は全員参加することが義務付けられている。クラス全体で踊るフラ5曲に加え、男子学生は別に3曲を踊る。女子学生の華やかな衣装とは対照的に、男子学生の衣装は、白の長袖シャツと黒ズボンというきちんとしたもの。その両方を持っていなかったぼくは、発表会数日前に急いでアラモアナ・ショッピング・センターで買い揃えた。衣装を着て、鏡で自分の姿を見る。我ながら、馬子にも衣裳だなと嬉しくなってしまった。

 当日、6時半から最後のリハーサル。軽くざっとおさらいといった感じだ。本場直前には、控え室で約100名程の出演者全員で手をつなぎ、大きな輪になって公演の成功を祈る。自分も、その輪の一員であることが何だか信じられないが、とても嬉しい。ハワイへ来た当初は、まさかこうやって自分がフラの公演に出ることになるとは思いもしなかった。

 7時45分、とうとう開演。まずは上級クラスの学生達によるフラ。自分達は舞台裏で待機する。同じクラスの、一際上手い女の子が、1人遠くで静かに座っていた。開演を前に、集中力を高めているのかな、とも思った。やがて、自分達の出番。順に舞台へと進み、とうとう自分も舞台へと出た。

 考えてみれば、こうやって大きな講堂で多人数を前に何かをするのは、小学校の発表会や音楽会以来のような気がする。高校の文化祭のステージで司会をしたが、その時は仮設の屋外ステージで、ちゃんとした講堂という訳ではなかった。小学校のあの時には、まさか再度こういった舞台に立つ機会が、ハワイでのフラの発表会だなんて、全く想像もつかなかった。人生とは、本当に不思議で面白いものだ。

 そんなことを、ぼーっと考えながら「oli(オリ)」と呼ばれる歌を歌い、実際に踊り始める。始まってみると、クラス全体での4曲は瞬く間に進んでいき、あっという間に時間は過ぎていった。やがて退場。こちらは、学生も多人数出ているから、間違えてもあまり目立たないのだが、問題は、後半の男子学生だけによる踊りのほうだ。

 他のクラスの歌や踊りを挟み、とうとう男子学生によるフラの出番。とりあえずは、上手くなくても良いから、間違えないようにと心がける。観客席に友達が座っているのも見えるのだが、彼らと目を合わせるのは恥ずかしいので、漠然とした観客を見ていた。2曲目は、踊りながら歌わなくてはいけないので大変。歌詞は全てハワイ語だ。3曲目は、「puili(プイリ)」と呼ばれる、30cmほどの2本の竹を持って踊る曲だ。練習の時と違い、ピアノの伴奏がつき、よりゴージャスな感じである。そのピアノの伴奏と共に踊りだしたところ、最初のフレーズが終わったところで、オーッ!!と観客席が沸きあがった。2本のプイリを自在に操るこのナンバーは、やはり見栄えがするらしい。途中こんがらがってしまった部分もあったが、何とか無事終える。観客席からは大きな拍手。とりあえずは、ここまで終わった、と舞台を後にする。何だか、あっという間であった。

 再度、他のクラスによる踊りや歌をはさみ、とうとう最後に「May Day(メイ・デー)」という曲になる。メイ・デー(May Day=5月1日)というと労働者の祭典を思い浮かべるが、ハワイでは、メイ・デーといえばレイ・デー(LEI DAY)である。この日は、ハワイの象徴とも言える、花で出来た首飾り「レイ」を贈りあうのだ。その日のことを歌った「May Day is Lei Day in Hawaii(ハワイでは、メイ・デーはレイ・デー)」という歌を歌いながら、出演者全員が舞台へと再度集まる。舞台上には入りきらず、ぼくたちのクラスは観客席通路で踊る。座っている友達と何度か目が合う。最後の曲が終わり、先生や伴奏者の紹介とともに拍手が贈られた。何とも言えない、満ち足りた気分だった。こうして、フラ・ダンスの発表会は終わった。

 フラは、学期中は覚えることが一杯で、特に男子学生は更に多く、上手に踊ることも出来ず、大変だなーと思っていた。しかし、終わったら終わったで、もうフラを踊ることもこれで一生無いのかと感じたら、何だか寂しくなってしまった。今まで当たり前のように毎週顔を合わせていたクラスメート達と会えなくなるのも寂しい。ぼくは、日本人学生といつも一緒にいたのだが、他のクラスメート達とも、もっと仲良くすれば良かったなと、今になって思う。

 祭りのあと。終わってしまったのは寂しいし、一緒だったクラスメート達と会えなくなるのは悲しい。改めて、自分はこういう何かを長時間かけて作り上げていき、それを一気に舞台の上で出し切るような繰り返しが、性に合っているのかもしれないなと思った。演劇が好きで、高校時代は舞台俳優になりたかった。結局、その夢は変わったが、何かを作り上げていきたい気持ちは、今も変わらない。