事実は小説よりも樹なり・ハワイ編10
NYへは行かない (2002'12'23)




アロハ・タワーで見つけたツリーです。
皆さん、どうぞ良いクリスマスを!

 先日、四ヶ月住んだ自分の寮から、隣の寮へと引っ越した。引越しといっても、冬休みの間だけの一時的なもの。年末年始、実家にも戻らず、旅行もしないという学生は、どうやらそんなに多くないらしく、一ヶ所の寮へと集められるのだ。しかし、わずか100m程の移動とはいえ、ハワイへ来てからだいぶ荷物が増えてしまっていたようで、半日がかりの大仕事になってしまった。

 引越しの二日前には、期末試験があった。自分の取っている科目ではレポートがほとんどだったため、それが唯一の試験だったのだが、これがもう大変だった。試験勉強が大変だった訳ではなく、試験勉強しようにも、どうにもやりようがない辛さ。範囲の文献を読んでも、語彙力の欠如ゆえ理解ができず、ただただ焦燥感と自己嫌悪に駆られて時間が過ぎていった。

 そんな折、一本の電話がかかってきた。NYに住む友達からだ。他愛のない話しをしているうちに、冬休みの話になった。自分が、特に予定はなく学校の寮に滞在するつもりだと言うと、良かったらこちらに遊びに来ないかと誘われた。3週間の入寮費と、NYへの航空券、調べてみたら値段はそんなに変わらない。俄然、心が動き出した。

 試験当日。予想通りさっぱりできなかった。受ける前から分かっていた結果である。でも、それに対してどうすることも出来ず、どうすることもしようとせず時間を過ごしていた。その夜、寝る前にベランダに出て風に吹かれながら考えた。ああ、ぼくのハワイ大学での一学期が終わったんだなと。最初にこの寮に来た夜のことを覚えている。あれから、ぼくのハワイ大学での半分が終わってしまった。この古びた寮は、こうやって何十回も終わりと新たな始まりを見守ってきたんだろう。その内の一学期を、ぼくはここで友達と過ごした。ここ数日間ずっと考えていた問いが頭をよぎる。ぼくは、ハワイへ来て何を手に入れたんだろう。ぼくは何をしたんだろう。

 そう考えて、ぼくは一つの結論を出した。NYへは行かない。NYへ行けたら良いと思うのは、ハワイへ来る前の、日本での気持ちに似ている。ハワイへ行ったら、手に入れられる。英語が使える自分、サーフィンを楽しむ自分、そんな自分を手に入れられる。しかし、現実はどうだ?試験は出来なかった。サーフィンにも行っていない。何よりそれに対して、手に入れようと努力をしていない。NYへは行かない。この状況でNYへは、次の場所へは行けない。

 引越し後の整理を終えた部屋の窓から外を眺める。相変わらずの青空の下、芝生のスプリンクラーが、これまた相変わらず、けたたましく水しぶきをあげている。成りたい自分を探す旅は続く。

 こうして、今日、ぼくは23回目の誕生日を迎えた。