事実は小説よりも樹なり 2005・13
トルコへの旅 7 「地下宮殿、火事、ウミネコパン」 (2005'07'10)



スュレイマニエ・ジャミィと、飛ぶウミネコ
丘の上に立つスュレイマニエ・ジャミィと、飛ぶウミネコ
イスタンブールのアジア側へ渡る、フェリーの甲板から撮影

 イスタンブールに着いて2日目の朝。この日は、まず「地下宮殿」というところに向かった。高いお金を払って入場する博物館、美術館の類にはとんと興味がないのだが、ここだけは入場料を払ってでも入りたかった。前に紹介したスルタンアフメット・ジャミィのすぐ近くの地下に、4世紀から6世紀に造られたという大貯水池があり、現在は「地下宮殿」という名で観光名所になっているのだ。この地下宮殿、フランス人考古学者が存在を発見するまでは、長らく誰にも知られていなかったという。

地下宮殿  入口で$8(約880円)を払い、階段を下がっていくと、そこは別世界だった。大きさはサッカー場ぐらい、天井はビル3階分ほどの高さがあり、地下とは思えないほどの広々とした空間となっている。柔らかな白熱灯でライトアップされた薄暗い場内では、アーチ状の天井を支えるため、200本以上はあろうかという無数の柱が並んでいる。その柱の1本1本が、古代ギリシア建築を思わせるようなデザインとなっており、まさに「地下宮殿」という名がふさわしい。(写真=地下宮殿でもらったパンフレット)

 地面には澄んだ水がたまっており、列柱の間を歩いても、絶えず水滴がしたたり落ちてくる。ひんやりとした空気の中、観光客の話し声と、どこからともなく流れてくるBGMの、トルコの笛の音だけが響き渡っていた。

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 地下宮殿を後にしてから、何となくぶらぶらと海へと向かっていたところ、煙が上がっているのが見えてきた。響く消防車のサイレン。火事だ!一目散に、野次馬のため煙のほうへとかけていく。場所は港のすぐそばで、取り壊された家屋の瓦礫に火がついたらしい。まだ発生間もないようで、消防士に放水されながらも火の手は止んでいない。

火事の現場  しかし、火事よりも興味深かったことは、10〜20人程の人だかりに、どこからきたのか、パンの物売りが現れたのだ。「スィミット」と呼ばれるゴマ付きドーナツパンを、山のように頭に抱え、野次馬の間を「パンはいらんかね?」とまわっている。スポーツ観戦ではあるまいし、火事の野次馬で物売りなんて前代未聞だなと見ていたのだが、かわいそうに誰も買ってくれる人はいない様子。やがて警察が到着して、「入ってはいかんよ」と、野次馬もろとも現場から締め出されてしまった。

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 かくいうぼくも一緒に締め出されてしまったので、今度はフェリーに乗りに行くことにした。イスタンブールのヨーロッパ側、エミノニュ桟橋から、アジア側のカドキョイ桟橋へ。片道1YTL(約80円)、15分の船旅である。何だかお腹も空いてきたので、1YTL(約80円)で買ったケバブサンドを手に甲板の座席につく。これだけお値打ちで、これだけ美味しい軽食を、ぼくは他に知らない。

ウミネコ  やがてフェリーが出発すると、何十匹というウミネコがついてきた。デッキでも先ほど同様、ゴマ付きドーナツパンが売られていたのだが、1人の男が購入すると、口には運ばずに、切れはしを外に向かって投げ出した。絶妙にクチバシでキャッチするウミネコ。そうか、それでこんなに多くの群れが船の後を付いてくるのか、と納得。器用に飛びながらも、投げられたパンの切れはしを何十匹もが奪い合い、キャッチする様子は、見ていて中々に飽きてこない。中学の修学旅行で行った東北のリアス式海岸で、同じく船からウミネコパンを投げたのを思い出しながら、日本もトルコも変わらないなと妙なところで感心していた。