事実は小説よりも樹なり 2005・04
沖縄の世界遺産を廻る 2
「今帰仁城跡・座喜味城跡・中城城跡」
(2005'02'03)



座喜味城跡
座喜味城跡の石垣の城壁と、アーチ式の石門

 前回の、沖縄世界遺産の話の続き。

 4.今帰仁城跡(なきじんじょうあと)
 沖縄本島北部、今帰仁村に位置する城跡。沖縄の観光地として有名な「沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館」から、車で15分程の場所にある。

今帰仁城跡  水族館からそれだけの近さにも関わらず、訪れる観光客は少ない。それも無理はない。そもそも首里城以外の世界遺産は、ガイドブックにもあまり紹介されておらず、存在自体が認知されていないのだ。日本本土で観光地となっている城跡は、立派な天守閣がそびえているのが通常だが、沖縄の城跡は、正殿が復元されている首里城を除けば、どこも石垣が残っているぐらいである。そんな所にわざわざ足を運んでも、特に面白いことはない。そう思われているのだろう。実は、ぼくもそうだった。今回足を運んだのも、城跡を見てみたいというより、沖縄の世界遺産を制覇したいという気持ちのほうが強かったのだ。

 週末の日曜日。迎えに来てくれた友達の車で、お昼前には今帰仁城跡に到着。入口の横には、猫が2匹、陽の光を浴びながらまどろんでいた。石積みの正門をくぐり、石畳の階段を上っていく。春には桜の名所となるそうだ。

今帰仁城跡からの展望  階段を上りきり、木々を抜け見晴らしの良い場所に出たとき、思わず声がもれた。周りの風景が、遮るものも無くパノラマで目に飛び込んできたのだ。眼下には、いま上ってきた木々や家々。その先の海岸線には白波が立ち、珊瑚の海はエメラルド・グリーンに輝いている。沖からは群青色に変わり、水平線で空と交わっている。

今帰仁城跡  一方の山側には、城の石垣がうねうねと続いている。横にいた観光客の男性がつぶやいていた。「何だか、万里の長城を彷彿させるな・・・。」確かに、スケールこそ違えども、日本よりは大陸の香りを感じさせる。観光に来ている人の中には、屋敷跡や石垣の造りを熱心に見ている人たちもいたのだが、そういったことに詳しくなくても、ただそこに立ち、風景を眺めているだけで全然飽きがこない。そういった不思議な魅力が、沖縄の城跡には、確かにある。

 5.座喜味城跡(ざきみじょうあと)
座喜味城跡  こちらは、沖縄本島中部・読谷村(よみたんそん)に位置する。入口から城跡へと続く松の並木のゆるい坂道を上ると、石垣がアーチ型の口を空けてそびえ立っている。そのアーチをくぐり内部と入ると、緑の芝生が広がっていた。その素朴さが心地良い。

 さらにもう1つの石垣のアーチを抜け内部に入ると、殿舎跡があった。今では礎石が残っているだけである。石垣に階段がついていたので、上がってみることにする。

座喜味城跡からの展望  今度は、言葉を失った。近くの残波岬、さらにその周囲の東シナ海を一望することが出来たのだ。海の上には雲がかかり、その雲の切れ目から、西日の柔らかな光が水面へと注いでいる。それは、あたかも人知の及ばない何かが、天から降臨してくるかのような、そんな風景であった。沖縄には「ニライカナイ」という言葉がある。海の彼方にあると信じられている、神が住む楽土のことだ。石垣を上り突如表れた光景は、あまりに胸にすとんと落ちてきて、思わず「ニライカナイ」伝承を思い出した。

 6.中城城跡(なかぐすくじょうあと)
 この日は、午前中から世界遺産めぐりをしていたのだが、中城村にあるこの中城城跡に着いた時には、すっかり日が暮れてしまっていた。ここは、数ある城跡の中でも規模はかなり大きなものである。本来なら、大空の下で荘厳な石垣の造りを鑑賞できればよかったのだが、残念ながら暗闇に浮かび立つ姿の鑑賞となった。それはそれで神秘的で良かったのだが、さらに幸運なことがあった。石垣に上ると、眼下には沖縄の夜景が、宝石を散りばめたように広がっていたのだ。東に太平洋、西に東シナ海。その狭間に位置する島の上を、キラキラと瞬く光が覆いつくしている。

 石垣の上は、遮るものがないため、沖縄とは言え、夜には風が吹きつけてきて肌寒い。しかし、そんなこと構わなくなるほどの、息を呑む光景であった。写真を撮ろうとしたが、手ぶれによって上手く撮ることが出来ない。早々にあきらめ、記憶に風景を残すことにした。

 沖縄の世界遺産を制覇すると言って始めたが、もはや目的などどうでも良くなった。ただ、そこに足を運び、自らの身をおき、その場の空気に委ねる。二度と同じように再現されることのない、波や、空や、光の合わさった風景が目の前にあらわれる。それで、十分ではないか。

 暗闇の中、相変わらず、吹きつける風は強い。石垣から足を踏み外したら、ちょっとした怪我では済まないかもしれない。それでも、ポケットに手を入れ、眼下の光を眺めていた。広角レンズでもとらえきれない光の洪水を、風に吹かれながら、ただじっと眺めていた。