事実は小説よりも樹なり 2004・24
屋久島への旅 2 「福山と倉敷美観地区」 (2004'08'22)



くらしき花・七夕祭
夕暮れの中の「くらしき花・七夕祭」の様子
倉敷川にかかる中橋の上で、能のコンサートが行われた。

 8月6日(金)
 広島県福山市。ぼくはそのアーケード街をさまよっていた。「岡山へ行く」とハワイ大で一緒だったヨーコさんに話したところ、ぜひ福山にも寄ってと言われたのだ。福山は彼女の出身地である。

福山駅  岡山から電車で1時間弱。駅に着くと、車窓から福山城が見えた。街並みは、新幹線停車駅だけあって、想像以上に(失礼!)栄えていた。(写真=福山駅)

 大きな街ならどこにでもある、中心になるようなメインストリートを目指して散策をする。しかし、昼下がりの一番陽射しが強い時間帯ということもあり、どこを歩いても人影はまばらであった。どこかでお茶でも飲んで一休みしようとしたものの、アーケード街はシャッターを下ろしている店が多い。コンビニでアイスキャンディーを買い、歩きながら食べていたのだが、あまりの暑さにポトリと地面に落としてしまった。まるで子供である。

 *

 暑さに耐えきれず、福山散策は終了することにした。今度は倉敷へと向かう。倉敷には「美観地区」という、昔からの町並みが残されている地区があるという。

倉敷美観地区  駅から約1km。商店街を抜け歩いていると、やがて「美観地区」に行き着いた。倉敷川沿いに柳並木が並び、道沿いには白壁の建物が建ち並んでいる。さすが岡山随一の観光名所だけあって、町並みに風情がある。(写真=倉敷美観地区)

 観光客に交じり、浴衣姿の女子アナウンサーがTV中継のリハーサルをやっていた。どうやら「くらしき花・七夕祭」というお祭りが開催されるようなのだ。倉敷川には花で飾られた小舟が浮かべられ、川沿いには蝋燭の入った竹灯篭が次々に並べられていた。日没後の7時から、川にかかる中橋の上で能の演舞が行われるという。

 お祭りまでは、まだ時間があった。それまでの間、駅前の「ままかり屋」という小料理屋に入った。カウンターの大皿に、おかみさんの手料理が並ぶ。その中から、名物という「乙島(おとしま)のしゃこの唐揚げ」や「ままかり」を注文した。「乙島(おとしま)のしゃこ」は、最初は「お通しのしゃこ」と聞こえ、どういうことだろうと思ったが、有明海と倉敷・乙島でしか捕れないしゃこなのだそうだ。

 隣に座った出張の中年男性は、今までこの店が「3勝5敗」と言っていた。15人も座れば満席の店内とは言え、いつもお客さんで埋まっているため、なかなか入ることが出来なかったそうである。そう考えると、ふらっと立ち寄れたぼくは、運が良かったのかもしれない。

 夜7時。再び美観地区に戻る。小雨のため、「ままかり家」のおかみさんが傘を貸してくれた。能コンサートはあいにくの雨の中での演舞となり、川沿いの竹灯篭の蝋燭も消えてしまっているものが多い。正直、寂しい感じは否めなかったが、一方良いこともあった。川沿いの大原美術館が開館時間を延長しており、入場料も任意でどうぞと、特別開館していたのだ。この大原美術館、モネやピカソ、ゴーギャンなど有名作品を多数所蔵している。まさか今回の旅で、モネの「睡蓮」が見られるとは思ってもいなかった。

 帰り際、傘を返すついでに軽く飲み直した。ぼくと同世代の息子さんがいるというおかみさんは、上海で生まれ、幼い頃に大陸からの引き揚げを経験したという。その後しばらくは、親戚のいた長崎に身を寄せたそうだ。「あの時あの場にいて経験した者なら、戦争は絶対やってはいけないものだと思うはずですよ。」おりしも、この日は59回目の広島原爆投下の日。

 ビール2杯飲んだところで、お店を後にした。降っていた雨は、いつの間にかあがっていた。