事実は小説よりも樹なり 2004・20
バイト体験談 3 「家庭教師 宝くじ販売 試験監督」 (2004'07'07)



バイト体験談 3
大学1年当時の授業風景

 5 家庭教師
 時給:2500円程/場所:自宅近く
 案外大変度    ☆☆☆☆★
 生徒との会話度  ☆★★★★

 大学に入り、まだ日も浅い4月のこと。家庭教師斡旋の事務所に登録したところ、程なく近所の中学生を紹介された。家庭教師といっても、何をどう教えればいいかも分からない。生徒は中学3年生の女子生徒。部屋へと入ると、なぜか2人いる。“?”と思っていたところ、「友達と一緒が良い」ということらしい。

 親御さんから頼まれたのは、「国語」。英語と数学は塾に通っているそうだ。教科書を見ると、今度の中間試験範囲は「詩」。英語で文法の解説をしたり、数学の公式を教えたりするのは比較的容易い。答えがあるからだ。しかし、国語の詩なんて、感じ方は千差万別だろう。何をどう教えたら良いものかと思いつつ、書店に行って教科書のアンチョコを購入した。もちろん、自腹で・・・。

 さらに試験前になると、追い討ちをかけられるように「理科」と「公民」も教えて欲しいと依頼される。「公民」はまあ問題ない。これでも法学部だ。しかし、受験で英・国・社しかやらなかったぼくにとって、「理科」は中学レベルでも苦戦する。学部の自習室で、周りが司法試験の勉強に没頭している中、1人で「中3理科」の教科書を開き、「オームの法則」だの「フレミング左手の法則」だのを一生懸命頭に叩き込んだ。

 そういった訳で、時給は高いものの、予習の時間を考えれば、そんなに美味しいバイトではない。さらに苦痛だったこと。それは、生徒があんまり反応してくれなかったことだ。中学の時の授業を思い出して欲しい。先生は説明するものの、生徒はぼーっとしていたり、下向いていたり、落書きしたり。ぼくが話していても、2人はそんな感じで、まるで教室の縮図だった。休憩時間には、例によってお茶とお菓子が出るのだが、会話が弾むことなど皆無で、2人はいつもすぐにテレビを付けていた。

 そんなお互いの気持ちが一致したのか、1ヶ月もしたところ、先方の親御さんから「今度から塾に通わせることにしました」との連絡。それを聞いて、こっちも心を安堵させた。あれから5年。生徒達も、当時のぼくと同い年になっているはずである。

 6 宝くじ販売促進
 日給:10000円/場所:池袋
 楽チン度     ☆☆☆☆★
 時給の美味しさ度 ☆☆☆☆★

 家庭教師の職から解放され、1週間ほど経った日曜日。サークルの先輩からバイトを紹介された。内容は、宝くじ売り場での「サマージャンボ宝くじ」の販売促進。街中でよく見かける、「サマージャンボ、1等前後賞合わせて3億円でーす!」と呼びかけているあれである。

 朝9時に池袋集合。事務所で赤いTシャツに着替え、あとは売り場で「いかがですかー」と叫んだり、「最後尾こちらでーす」と案内したりするだけの仕事である。駅構内なので、陽射しが暑いということも無い。立ちっぱなしだが、休憩も何度かきちんともらえる。

 宝くじを購入している人を観察していると、わずかなお金で一発千金を狙う人より、すでに潤沢な資金を持っている人が、数万円、数十万円単位で大量に買っていく場合が多い。そのため、購入者も、定年後でお金も豊富に持っていそうなご老人が多い。

 それにしても、楽な仕事である。特別なスキルは何もいらないし、肉体労働という訳でもない。5時には事務所に戻り終了。日給は、1万円+交通費千円。こんなにもらって申し訳ないという気持ちで封筒を受け取る。机では、パートのおばちゃんが、山のように積まれた宝くじの束の枚数を数えている。が、よく見ると、それは全て1万円札であった。おそらく、その机の上だけで数億円分・・・。そんなに多額の現金を目前にしたのは初めてだった。それを見て、その内の1枚をこうして日給でもらっても、やっぱり全然問題ないなと思い直した。

 7 試験監督
 日給:13000円程+弁当付き/場所:大学
 人気度      ☆☆☆☆☆
 結構ヒマ度    ☆☆☆★★

 こちらは、大学の学生課掲示板で見つけた仕事。英検などの試験監督のバイトは、バイト雑誌ではなく、大学の学生課掲示板にて募集されることがほとんどである。単発のバイトで、朝が早いことがほとんどだが、知っての通り内容はほとんど座っているだけ。それで高い日給がもらえるため、掲示が出ると申し込みの列が出来るほどである。

 ぼくが行ったのは、情報処理技術者試験の補助員。朝7時半から夕方5時半まで。スーツ着用だと思って着ていったら、実際には普通の服装でも問題なかったようだ。仕事は、主に2種類ある。教室内で問題用紙等を配布する試験監督員と、廊下のイスで待機して連絡調整にあたる監督補助員の2つだ。ぼくがやったのは後者のほうで、試験中は廊下のイスでずっと待機。とはいえ、急な連絡等があるわけでもなく、携帯のメールでずっと暇をつぶしていた。

 午後の試験前、静かな教室をゆっくりと一巡してみた。今まで、何度も模試や入試等で自分が試験を受けてきて、一度、逆の試験監督の立場を味わってみたかったのだ。受験者は会社員と思われる中年男性がほとんどで、皆、神妙そうな面持ちである。ぼくは、腕に腕章をつけたスーツ姿で、40人ほどの教室を一周した。秋が深くなった大学の教室の中、革靴のコツン、コツンという音だけが響く。

 一度はしてみたいと思っていた、受験者でない監督者の立場。しかし、何だか逆に申し訳ない気持ちになった。いくら監督員だとはいえ、こんな白いメッシュ髪の10代の若造が、父親程の年齢の受験者を前に、偉そうに歩いているのが申し訳なく感じたのだ。

 結局、試験監督のバイトをしたのは、この時だけである。大学入試の際にも、学生バイトが募集されるが、人気が高いため抽選によって選ばれるのだ。ぼくも、全学部の試験日程に申込んだ。1日につき約1万円だから、10学部だったら10万円である。結果は、葉書で通知された。当選ゼロ。入試監督補助バイトに合格することは、入試で合格することよりも難しい、かもしれない。