事実は小説よりも樹なり 2004・7
基地の島で考える3 「ハコモノの未来は」 (2004'03'15)



基地の島で考える3 「ハコモノの未来は」01
名護市・金融特区の建物
4月の完成に向けて、現在は建設中である

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」02  その建物は、「 名護市マルチメディア館 」と書かれていた。建物の前にいた、建設作業員風の男性に「この建物は、何の建物なんですか?」と聞いてみると、「・・・うーん。さぁ。」との答え。ならば、入ってみて聞いてみるのが手っ取り早い。中に入ると、雰囲気は何だか学校か公民館のようだった。

 受付の女性に話を伺ったところ、事業は大きく分けて3つから成り立っているという。研究開発事業、ベンチャー企業誘致育成、人材育成の3つだ。特に、ベンチャー企業誘致育成のための「インキュベート施設」が大半を占めるようだ。インキュベートとは、「卵をふ化する」という意味で、新しい産業への進出を目指す中小企業やベンチャー企業に、建物・設備を賃貸し、企業としてのスタートを支援することを表す。ここには、約20のインキュベート用の部屋があり、現在、そのほとんどが使用中。家賃は3年間免除。ただ、入っているのは、必ずしも地元のベンチャー企業だけでなく、本土からの企業も多く利用しているとのこと。地元の人にとっては、「人材育成」の場としても使われているようで、ぼくが行った時には、数人の中年女性がパソコン教室の申し込みをしているところだった。逆にいうと、一般の市民にとって、パソコン教室ぐらいしか、利用の機会はない。

 パンフレットによれば、沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業として、1999年に開館。総事業費が約12億円。内、補助金で約10億円を賄ったそうだ。補助金の出所は、郵政省事業(当時)に、防衛施設庁事業、北部振興策事業。

 さて、受付の女性が、良かったら隣の「海洋センター」や「雇用センター」も見てきたら?と教えてくれた。このマルチメディア館のほかにも、最近出来た建物がいくつか隣接しているようだ。

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」03  さっそく、隣へと移動してみると、「 名護市国際海洋環境情報センター 」と書かれていた。中に入ってみると、ちょっとした科学博物館のようでもある。受付の女性に話を聞いたところ、こちらは文部科学省所轄の許可法人「海洋科学技術センター」の活動拠点の一つで、施設・設備の管理については、名護市が行っているとのこと。世界の地球観測データも含め「収集・加工・発信」する拠点となっているそうだ。「収集・加工」としては、他の活動拠点が潜水艦などで撮ってきた深海映像や関連情報を、コンピューターで扱えるように電子情報へ変換を行っている。一方、「発信」としては、講義室や展示室などで、地球環境に関する展示を行っている。

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」04  講義室の内部にも入れてもらった。天井も高くデザインも洒落ている。天井部分の木材は、九州・沖縄サミットの際の、プレス・センターの木材を再利用して作られたそうだ。そもそも、この施設はサミット記念事業として2001年に整備されたとのこと。パンフレットには、「本施設は隣接する名護市マルチメディア館(平成11年4月開所)とともに、名護市が推進する沖縄県北部地域での情報通信関連企業の誘致、雇用創出及びマルチメディア分野の人材育成の促進を目的とし平成13年に整備されました。」とある。

 講義室の大画面でビデオを見せてもらったのだが、大きな講義室にぼく1人きり。何だか、逆に落ち着かない。これだけの大きな講義室、普段はどういうことに利用しているのですか?と尋ねたところ、市民に向けた講座などでも使用しているという。多いときには100人ぐらい集まるらしい。このように、地域の人達にとっては、子供の学習や、市民のための講座・セミナーで利用されてはいるようだ。しかし、パンフレットに書かれているような「雇用創出及びマルチメディア分野の人材育成」は、やや大風呂敷に過ぎないか?そんなことも感じた。

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」05  さて、次に雇用センターへと行ってみる。正式名称は、「 沖縄北部雇用能力開発総合センター 」。中に入ると、がらーんとしている。受付で「すいませーん」と呼ぶこと数回、やっと奥から職員の方が来て下さった。独立行政法人である「雇用・能力開発機構」の沖縄県北部地区でのサービス拠点として、2003年9月にオープンしたばかりだそうだ。

 いわゆる「ハローワーク」、「職安」とは何が違うんですか?と尋ねたところ、ハローワークは直接仕事を斡旋するところ。ここは、求職者・在職者のため、仕事で使う技術を教えるところ、とのこと。様々な講座が用意されているが、特にIT関係の講座が多いそうだ。職業能力開発のための相談にも応じ、また雇用主に対しては、雇用管理上の課題に対する講習や研究会も行っているという。

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」06  最新のパソコンルームや、大きな多目的ホール、研修室等が完備されている。やはり、多くの学生や求職者に利用されているんですか?と聞いたところ、「いや、それが・・・。」との答え。まだ昨年9月に開館したばかりで、充実した設備の一方で、認知度は、まだ今イチの様子。一日平均、20名ほどの利用に止まっているそうだ。ロビーにはWindows XP搭載のパソコンが数台、自由に使用可能になっている。ぼくの近所の図書館でも、自由にインターネットが使用できるパソコンが数台あるが、いつ行っても順番待ちになっている。ここでは、滞在していた30分ほどの間、誰一人として使用する人はいなかった。

 帰り際、職員の方から、近くにもうすぐ金融特区が出来ることを教えてもらった。ニュース等で話題になっている名護市の金融特区は、実はこの地域に出来るのだった。金融特区とは、正式名称を「金融業務特別地区」と言い、国内で唯一の税制優遇地域となる。後から新聞で知ったのだが、奇しくも同じ日には、 沖縄サミットが開かれた万国津梁館で、この金融特区の展望を議論する「沖縄金融専門家会議」が行われていたようだ 。建設現場の場所まで教えてもらい、「じゃあ、ここで雇用能力を磨いた人も、そこで働くことが出来ますね」と答えたところ、職員の方が一言。「ここの人間が出来る仕事なんて、掃除ぐらいのものではないかなあ・・・。」

基地ある島で考える3 「ハコモノの未来は」07  4月の完成に向けて、工事を行っている建設現場を見に行った。建物の形は、おおむね出来上がってきている。看板を見ると、「工期:平成15年12月10日〜平成16年3月31日」と、だいぶ突貫工事だ。「工期」の下には、「施行者」として、沖縄の建設業者の名前がずらりと並ぶ。見てきた3つの施設といい、この金融特区といい、建設段階においては沖縄の地元業者を潤すのだろう。しかし、一旦出来上がると、地元の人間にとって、必ずしも雇用に結びつかない構図が透けて見える。出来上がりつつある建物を、裏手にまわって眺めてみる。そこには、フロントガラスを割られた車が、無残な姿で捨てられていた。