事実は小説よりも樹なり 2004・2
「ポークたまご定食」を食べながら (2004'01'17)



ぐるくん唐揚げ定食
ぐるくん唐揚げ定食。
この写真のほうは、沖縄の定食屋で撮ったものです。
あしからず。

 大学の近くに沖縄料理屋がある。店内に入ると、壁には一面に沖縄のポスター。テーブルは赤く塗られ、紅型(びんがた)という沖縄の織物がいたるところに使われている。BGMには、BEGINなどの沖縄系ソングがかかっている。

 海外にある日本料理屋では、過度に「日本」をアピールしているところがある。琴の調べが流れ、着物姿で接客をする。そんな日本料理屋は、当の日本にはあまりない。きっと、この沖縄料理屋もそういう感じなのだろうなとは思いつつ、ふうっと落ち着いている自分がいる。

 先日、新聞で作家の池澤夏樹さんが、「島というものが好きだ」という一文で始まる文章を書いていた。それによると、池澤さんは「周囲がすっかり海という場所にいると元気になる性格らしい。」(朝日新聞 2004年1月14日 夕刊)

 どうやら、自分にも似たところがあるようだ。沖縄しかり、ハワイしかり。そこにいるだけで、落ち着いて、元気が出てくるのだ。沖縄の9箇所の世界遺産を紹介したポスターを眺めていたら、一刻もはやく沖縄に行きたくなってきた。

 ポークたまごを食べながら、ジューシー(沖縄風炊き込みご飯)をかっ込む。BGMがそれまでかかっていた「花」から、「さとうきび畑」の歌に変わった。丼ぶりいっぱいのジューシーを平らげる頃になっても、「ざわわ ざわわ ざわわ」と繰り返す歌は続いている。その時、急に昔の記憶を思い出した。この歌を、初めて聞いた時。それは、AMラジオから流れてきた。

 中学生の頃、ぼくはいつもラジオを聞いていた。小学校時代、毎日テレビばかり見ていたのを見かねて、母親が部屋からテレビを撤去したのだ。浴びるように聞いていたラジオの中で、ある番組が「さとうきび畑」の歌を紹介していた。10分を超えるこの歌を、ラジオが最後まで流すことは稀だという。確かに、30分の番組だったら、それだけで、約半分が終わってしまう。

 「さとうきび畑」の歌を聞きながら、そんな中学生のころを思い出した。ラジオばかり聞いていた当時。まだ沖縄に行ったこともなかった。「さとうきび畑」の歌をはじめて聞いた時には、まさか自分がこんなに沖縄に入れ込むことなど、想像もしていなかった。

 10分を超える歌が終わり、ぼくも、最後に残った沖縄そばのスープをすする。不意に店の扉が開いて、新たな客とともに、外の冷たい空気が流れ込んだ。その風に、東京にいることを再認識する。天気予報によると、明日は雪が降るという。暖かな店内で、厨房からの力強い「めんそーれー!(いらっしゃいませ)」という声が響きわたっていた。